息子が結婚したいと言う時 Ⅴ
11月 13th, 2012 by hpone_support2A1
今回の旅行計画については家内が息子と頻回に連絡を取り、可なり綿密な打ち合わせをしていたようでしたが、生来気儘で物臭な性質に出来上がっている私はそういうことにおよそ関心がなく、意欲も湧いて来ないのです。無論行き当たりばったり、と言うわけには行かず、誰かが周到な準備しなければ事が進まないのは百も承知のことです。従って、これまでも他人任せでやってきた私は当てにされないのを良いことに、飽く迄も無為、無責任を決め込んでいたのであります。結局、自宅に早々と郵送されてきた旅行計画書の類にも、9月22日の出発当日まで一度も目を通しませんでした。そもそも、ハワイなぞという所には殆ど関心がなかったし、息子の為、不承不承やって来たというのが本音です。しかし、そのことと彼らの結婚を祝福する気持ちとは全く別の問題である、と弁解しておかねばなりません。
ホノルル空港で、ふと見上げた空は9月も末とは言え、からっと晴れ渡った上天気で、直射日光の下でも余り暑いと感じないのが不思議でした。飛行場の出口に待ち構えていた現地旅行会社の係員の案内で、まさかこれに乗るのかと勘違いした白のリムジンの隣に止まっていた色は同じでも可なり年季の入ったワンボックスカーに、誘導されるまま押し込まれるように乗り込みました。そして、車窓の外を行過ぎる見知らぬ景色を目の当たりにして、愈々これから息子たちの重大事案たる結婚式に向ってハワイの時間が刻まれてゆくんだなあ、という思いを新たにしたのであります。空港から予約先のホテルに向う途中、折りしもお祭りのパレードが道路を占有していたこともあって、予定より可なり遅れて目的地に着きました。それでもチェックインの時間迄にはⅠ時間以上あったので、新婦の父親のモーニングの着付けの打ち合わせに同行し、旅行会社のホノルル営業所に向いました。ハワイで挙式をする若者たち(年寄りの新婚や再婚というのもあろうが・・・)のカップルの名前が20組あまり事務所の掲示板に掲載され、その中に息子たちの名前もありました。彼らは我々の飛行機とは別便で、およそ1時間遅れて成田を発った筈でしたが、首を長くして待ちわびる我々の前に姿を現したのは予想より可なり遅れてのことでした。これで全員無事にハワイの地を踏みしめることが出来ました。
ホテルはウエスティンホテル系列のモアナ・サーフライダーで、その9階が私と妻の居室であり、ベランダに立てば、眼下にワイキキの浜辺が広がり、左手にはダイアモンドヘッドを望むことが出来ました。これぞハワイの時を過ごした証とでも言ったところでしょうか。つまり、旅であれ何であれ、そこに過ごす時間のほんの一部が記憶の襞の間に輝くように結晶化する時、ひとはこれをいつか思い出と呼び、思い返す折に触れ懐かしいと溜息を漏らすのです。9月23日、結婚式の前日は特別の企画が用意されていたわけでもありませんでしたので、折角だから徒歩でダイアモンドヘッドを目指しましたが、高級住宅街の広大な立ち入り禁止区域に阻まれて挫折。ちょっと悔しい思い出です。積極的な思い出作りのため、短パンのまま海にも潜ってみました。聞くところによるとサーファーや多くの海水浴客が体にオイルを塗って海に入るものだから、水の透明度は低くお世辞にも綺麗な海とはゆきませんでしたが、人も通わぬ秘境でもあるまいし、それはそれで良い。
9月24日、晴れがましくも、彼らの待ちに待った結婚式の当日です。私は日本から持参のスーツに着替えるだけでしたが、新婦の父は一昨日衣装合わせ済みのモーニングに身を包み、迎えのバスが到着するのを待って、一同教会に向いました。高速道路を走行すること30分余り、随分時間が掛かるなあ、と思い始めた頃、挙式予定の教会が視界に入ってきました。そこから先はさもない話で、滞りなく結婚式は執り行われました。ただ、少しく肩身の狭い思いをしたのは、こっちが2人で、向こうが9人の出席者を用意していたことでした。内訳は、新婦の父親と妹の他に、新婦の伯母一家3人、遥々アリゾナから駆け付けた新婦ホームステイ先のご家族4人でした。
ハワイの日々は瞬く間に過ぎ、息子らより2日早く我々は帰国の途に着きました。再び機上の人となりこの間の出来事を振り返れば、息子らのお蔭で見知らぬ土地にやって来て、短い間ではあれ、これまでに味わったことのない心地よい異国情緒に彩られた時間を過ごし、またひとつ見分を広めることが出来たことを息子らに感謝したい気持ちでした。分けても、日の燦燦と降り注ぐ朝の静けさの中、降るでもなく、止むでもない、晴れ間から微かに舞い落ちてくる小ぬか雨の不思議な感覚は忘れることが出来ません。行き交う人々は誰一人として傘を差そうとしないのです、心地よいシャワーを浴びてでもいるかのように。そして、真夜中、家内も就床まどろみの中にある頃、ひとりホテルのベランダに立ち潮騒の絶えることなき繰り返しを耳にしながら見上げたオリオン座の星々の煌きを忘れることが出来ません。そして、息子ら二人が取り持ち遠方遥かより参集頂いた見知らぬ人々との出会いを不思議な縁と呼び、彼らに対して深甚の感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました。 (Mann Tomomatsu)